10年、20年、100年先のエネルギー安定供給に向けて
──INPEXの未来への挑戦を支えていきます
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※本座談会は2026年4月に実施
2025年の取締役会における印象に残った議論
滝本 まず2025年の取締役会の中で、特に事業関係で印象に残っている議題について皆さんに振り返っていただきたいと思います。最初に飯尾さん、いかがですか?
飯尾 印象に残った議論の一つは、再生可能エネルギー事業への投資についての議論です。私は、新規案件を評価する際に「この事業はINPEXにとって本当にふさわしいのか」という視点を常に重視しています。その観点からすると、再エネへの挑戦そのものの意義は十分に理解している一方で、どのような形で取り組むのかが極めて重要だと考えています。例えば、水素・アンモニアの製造といった、これまで当社が手がけてこなかった分野に一から挑戦する取り組みには、INPEXらしい挑戦意欲と将来への布石を感じます。一方で、既に多くのプレイヤーが参入している、いわば出来合いのビジネスに多額の投資を行うことについては、慎重であるべきだと感じています。こうした問いを投げかけ続けることこそが、社外取締役としての重要な役割だと考えています。
滝本 そうですね。再エネについては、執行側でも様々なプレイヤーが存在する風力・太陽光発電をどう考えるか、一方、当社ならではの事業といえる地熱発電で開発コスト・期間の低減をいかに図っていくか──などが議論になりました。ただエネルギー開発事業を展開する当社にとって、再エネの取り組みが不可欠ということは共通認識であり、収益性とともにINPEXの強みを活かせるものかどうかなど、総合的に検討しながら推進していく方針です。

森本 私は、「アバディLNGプロジェクト」と「INPEX JAPAN設立と国内事業の位置付け」、──この2つが印象に残っている議論だと考えています。
アバディについては、2025年8月にFEEDへと移行したわけですが、イクシスLNGプロジェクトのLessons Learntはあるものの、あくまで別の国で進めるプロジェクトであり、世界情勢、地政学・カントリーリスクをどう考えるのか、決議に至るまでに相当な時間をかけ徹底した議論を行ったと認識しています。取締役会として「やろう」と覚悟を固めた意味で、私としては非常に魅力的な議論になりました。
また国内事業では、先程の飯尾さんの話とも関係することですが、低炭素化ソリューション分野で厳しい状況が続く中、上田社長が「国内はマザーフィールドであり、ここで技術・知見・経験を磨いて将来に備えていく」という趣旨の発言をされ、私自身は新潟で進められている水素・アンモニア製造が未来を見据えた価値のある事業であると得心することができました。またINPEXJAPANが国内事業を承継することになり、これを機に新たな伸びしろが見えてきたとも感じています。これは取締役会でも申し上げましたが、1都8県、総延長1,500キロのパイプライン、数十社に及ぶ顧客層など国内に保有する優良な資産を活用することで、従来の石油・天然ガス事業の枠を超えた事業領域拡大の可能性も広がっているのではないでしょうか。
滝本 国内では近年、天然ガスの生産量が減退傾向にありますが、依然として利益率が高く、カントリーリスクも低い優良な市場であり、今後の事業拡大とともに低炭素化ソリューション事業の立ち上げに取り組んでいきたいと考えています。また、おっしゃる通り、当社ならではの強みを活かして電力事業など新たな領域への挑戦も検討しています。
次はミラーさん、新任取締役として、この1年間で印象に残った議論など、お聞かせください。
ミラー 私も、森本さんと同様にアバディの議論が記憶に残っています。この1年間、社外取締役、しかも初の外国籍取締役として、これまで当たり前とされてきた前提に対し改めて問いただしていくことが私の役割の一つと考えてきました。またオーストラリア人として、INPEXがオーストラリア国内でどう見られているのか、Social License to Operate(SLO:社会的操業許可)の観点から積極的な発言を心掛けてきました。アバディでは、政治・地政学リスクの顕在化を前提としたリスク管理の必要性など議論しましたが、私からはガバメントリレーションの観点から、事業の経済合理性を踏まえながらも、インドネシア政府との信頼関係を丁寧に維持していくことが重要だと申し上げました。
滝本 アバディが議論として最も印象に残っており、且つ取締役会で十分議論された上で、会社としての決定がなされたということですね。
実効性についての分析・提言──短期対応と中長期戦略をいかに両立するか
滝本 今ほどお話しいただいたテーマも含め事業に関する議論の中で、社外取締役として気になった点があればお聞かせください。
ミラー 気になった点というより、今後の改善に向けての提案として、短期的な対応はもちろん非常に重要ですが、それと同時に中長期的な課題への対応についても深く分析・議論すべきではないでしょうか。今は短期的には中東情勢への対応で大変だと思いますが、短期的な対応だけで数カ月、1年、2年と過ぎてしまうことがないように、社外取締役としても意識的に注意喚起していきたいと考えています。
滝本 そうですね。ご指摘いただいた点については、取締役会でもINPEXVision 2035策定時をはじめ、中長期的な目線でたびたび議論していますが、特に今年2月末以降の中東情勢など、これだけ急速に事業環境が変化する中では、それに追いついていくと同時に、目先の事態に捕らわれることなく、ミラーさんが言われるように中長期的な目線で「経営の軸がぶれていないか」を常に確認していくことの重要性を感じます。
ミラー 非常に難しいことですが、これだけ不確実性が増している中では、もはや「想定外」という言い訳は通用しません。目先の変化に翻弄されることなく、常に「経営の軸がぶれていないか」を問い直し、いかなる事態にも対応していく必要があります。
飯尾 想像できないようなことが起きている、そして今後も起きる可能性がある中で、私たちには、この事態をどのように乗り越え、持続的な成長につなげていくのか──短期的・長期的な対応力が問われているといえます。既にそのような事態が起きてしまっているわけですが、今後のためにも、常日頃から思考力・判断力を鍛えておくことが必要ですね。

滝本 例えば、私たちは、今回の事態に際して最優先事項を駐在員、現地従業員を含む全社員の安全確保、第二の優先事項を当社の最大の使命であるエネルギーの安定供給とし、日本や豪州、東南アジア等のコアエリアにエネルギーを供給するための対策を講じました。短期の対応として、現時点では間違った判断ではなかったと考えています。また中長期では、油価の動きも見据えて今後1年の対策を検討するとともに、来年には取締役会でも新たな中期経営計画・Visionの議論がスタートすることになるので、その際にINPEX Vision 2035で掲げた10年間の成長軸についても、改めて議論していきたいと考えています。
森本 私からも、一つ提案させてください。現在、一定規模以上の投資案件については取締役会で承認する制度設計となっていますが、金額の多寡にかかわらず、より中長期的な戦略や会社の方向性に関わる案件については、ぜひ全体的な戦略における位置付けを取締役会の場で説明してほしいと思います。中長期の視点からその意義について、取締役会で議論することは有益だと思います。
滝本 おっしゃる通りで、私も個別案件の承認を単体として議論するのではなく、取締役会では会社の方針や戦略を重点的に議論して、その中で個別案件の位置付けを明確にしていくことが実効性の向上にもつながると考えています。
当社では今年の成長投資として8,500億円(2026年5月13日決算発表時点では8,000億円)を計画していますが、アバディが生産開始に至るまでの期間においても、一定程度の成長を確保していく必要があります。また、投資家から投資の内訳、収益貢献の時間軸、規模感をより具体的な開示にしてほしいという声が寄せられています。これらの要請に応えていくためにも、短期、中長期に分けた成長戦略を示す必要があると認識しています。このことから、取締役会で投資案件を個別に議論するのではなく、地域やテーマごとに整理した戦略全体の中で議論していければと考えています。
飯尾 その際、タイムフレームや地図などを用いて、戦略全体像がわかる資料があれば、理解が進み議論も深まります。
また、この件に限らず、中期経営計画、Visionの策定時には取締役会で会社の方向性、戦略の全体像など議論しますが、中期経営計画が動き出すと次の策定時期までは中長期を見据えた戦略が議題として取り上げられる機会が限られがちです。しかし事業環境は常に変化し、それに伴い事業展開も変わってくるので、新しい動きが出てきた時には「中計の2年目ですが、今このような戦略を考えています」というように説明していただく必要はあると思います。
滝本 そうですね。来年は中期経営計画の最終年度になるので、次の中期経営計画・Visionに関する議論がかなり活発になると思いますが、作る時だけ議論するということではなく、ご指摘の通り、戦略については常日頃からしっかり議論するべきですね。皆さんのご意見を踏まえ、担当部署、事務局としても対応していきたいと思います。
多様性が支える取締役会の実効性
滝本 ミラーさんは就任当初、当社の取締役会の雰囲気をどのように感じられましたか。
ミラー 社外取締役に就任するにあたり、INPEXは官僚的な雰囲気があるのではないか、取締役会としてきちんと機能しているのだろうか──などと懸念していましたが、実際に出席してみると、とても自由な雰囲気で質の高い議論がなされていると感じました。社外取締役の方々がそれぞれ専門性を背景に積極的に発言されていることが、活発な議論につながっていると思います。

森本 ミラーさんに加わっていただき、取締役会の議論がより深まったと感じています。これまではメンバー全員が日本人だったので、どうしても日本の視点で見る傾向がありましたが、ミラーさんに「オーストラリアから見るとどう見えるのか」を教えていただき、私たちも「オーストラリアのためにどうしたらいいのか」と考えるようになりました。
飯尾 私が就任した2017年当時は、社外取締役の多くが私と同じくE&P(資源エネルギーの開発・生産)の出身でした。その後は徐々に異なる属性・バックグラウンドを持つメンバーが増え、昨年ミラーさんに入っていただいたことで一段と多様化が進みましたね。同じバックグラウンドの人ばかりが集まると、どうしても「そうだ、そうだ」と同意をしてしまいがちですが、多様性が進むことで、こうしたグループシンクや盲点を防ぐことができ、確実に議論の質の向上につながっています。
滝本 執行側としては、ミラーさんに初の外国籍社外取締役として取締役会に加わっていただき、事業における参入・撤退の判断、リスクと機会の捉え方など異なる視点を知ることで新たな気づきにつながるとともに、議論も一段と深まり、企業価値向上にもつながっていくものと思います。また、今年から新たに外務省で長く活躍された齋木さんが社外取締役として就任されることになり、海外事業におけるリスクマネジメント、資源外交・国際関係構築の取り組みなどについて貴重なご意見をいただけることを期待しています。齋木さんと同様に新たに社外取締役として就任された高岡さんには、総合商社におけるエネルギー事業やグローバル経営のご経験を踏まえ、中長期の成長戦略や投資判断、ガバナンスの観点からご示唆をいただけるものと考えています。
飯尾 私からも一つ、これは私自身が気を付けていることでもありますが、社外取締役は大局的な観点を忘れず、助言を行う際は社外取締役としての役割を認識した上で、執行側の仕事に土足で踏み込むようなことは厳に慎まなければなりません。取締役会において役割分担が適切に意識されることが、議論の活発化、実効性の向上につながると考えています。
ミラー 確かに社外役員と執行役員の仕事にはラインがありますが、私自身は、むしろ違和感や疑問を持った時には遠慮なく質問するよう心がけています。執行側の責任だから社外役員が質問しないというのは、私は違うと思います。
森本 ガバナンス改革の方向性を考えると、独立社外取締役も、執行側から独立した客観的な立場から、平時には、具体的なビジネスの決定を執行側に委ねる一方で、自らは監督や助言を通して大局的な議論や意思決定に貢献することが求められますね。それは今でもある程度できていると思いますが、今後も常に意識しなければいけないということだと思います。
滝本 様々な観点から意見を伝えていただくことは事業自体の質の向上にもつながるので大歓迎です。今後も遠慮なく発言していただきたいと思っています。
企業価値を支える基盤としての人材と組織
滝本 社外取締役として、企業価値向上に向けて当社が乗り越えるべき課題についてどのようにお考えでしょうか。ご意見をお聞かせください。
飯尾 私は、INPEXの最大の価値はイクシスのように優良な資産を保有することであり、そのための事業開発を担う「人」を育てることが最大の課題であると考えています。持続的成長のためには高度な専門性を持つ人材に加え、技術職・事務職といった職群を超えた総合的な判断ができる人材が不可欠です。部署や組織の垣根を超えた経験を通じて視野を広げる育成のあり方や、専門性を深める人材育成とのバランスについて改めて検討していただきたいと思います。
滝本 そうですね。人材育成については、まさにおっしゃる通りで、特にマネジメントのサクセッションプランに限らず、それぞれの専門的な分野、例えば財務・経理本部、経営企画本部、技術統括本部、あるいは各地域の事業本部のジェネラルマネージャーのサクセッションプランも非常に重要だと考えています。
またスペシャリスト育成については、確かに同じ部署で長く同じ勤務を続けていると、他分野の知識が不足して組織全体を見ることができず、全体最適な判断ができなくなる可能性は否定できません。これについて正解はありませんが、皆さんからいただいた意見をもとに社内でも改めて議論させていただき、より良い方策がとれるよう検討していきたいと考えています。
ミラー INPEXの企業価値向上に向けた課題として、私は人材、ダイバーシティ、社会的操業許可(SLO)をあげたいと思います。
まず人材ですが、INPEXのグローバルプレゼンスが高まりつつある中、更に上のステージを目指すためにも優秀な人材の確保が一層重要になってきています。今も明確な報酬体系、評価制度はあると思いますが、グローバルなベストプラクティスは何かを考えた上で再検討すべき段階かもしれません。またダイバーシティについては、先ほど申し上げたように、不確実性が高まる中で多様な視点が意思決定の質を高めると思いますので、性別だけではなく、視点・経験の違い、専門性の違いも含むダイバーシティが重要になると思っています。最後にSLOですが、これについてはオーストラリア、インドネシア、中東、日本など全ての事業地域においては社会との信頼関係が事業継続の前提となるので、維持することが直接の企業価値向上につながると考えています。
社外取締役としての貢献について
滝本 最後に、ご自身の経験・知見をどのように活かして経営や取締役会に貢献していきたいか、お聞かせください。
飯尾 私は総合商社の出身で、資源・エネルギーの現場で様々な経験をして長年経営にも携わってきました。その意味では、当社の事業や案件について理解し、共感できる点も多いと自負しています。一方、長い職歴の中では成功もある一方、多くの失敗も経験してきました。そこから得たLessons Learntを踏まえ、取締役会においては時として多数の意見に安易に迎合するのではなく、違和感があれば率直に発言することを心がけ、当社の成長を支援していきたいと考えています。INPEXは伝統もあるし文化もある、とてもいい会社です。これから新規案件でも様々な取り組みがあると思いますが、INPEXらしい、INPEXならではの成長の道を歩んでほしいと思います。

森本 私は1981年に環境庁(現環境省)に入庁し、環境行政に従事するとともに、特に2020年のカーボンニュートラル宣言以降は経済産業省・資源エネルギー庁と連携してエネルギー行政にも取り組んできました。今は低炭素化ソリューション事業にとって非常に厳しい環境ですが、長期的に見れば世界は低炭素・脱炭素化に向かう流れは変わらないと考えています。エネルギーの安定供給―とりわけ日本への―をミッションとする当社にとって、この流れを見据えた取り組みは不可欠です。私が自らの経験・ノウハウを活かして貢献できることは、ミッション遂行のために不可欠な低炭素化ソリューションへの挑戦を支援していくことだと考えています。
ミラー オーストラリアに限らず国レベルの地政学リスク管理に長年携わってきましたので、それを活かして貢献していきたいと考えています。また、もう1社社外取締役を務めており、よくオーストラリアで言われているのですけれども、本当にそうかどうかは分かりませんが、「ブルース・ミラーは取締役会の良心。だから何が正しいかはブルースに聞け」と言われていますので、当社においてもガバナンス・コンプライアンスの面で貢献したいと思っています。特にコンプライアンスについては、ルール整備で満足することなく「何が正しいか」を考える文化を社内に浸透させていくことが重要であり、そのために率直な意見をお伝えすることが社外取締役としての重要な役割の一つと認識しています。
滝本 私たちとしては、ミラーさんには外国籍の取締役として海外からの視点で発言していただくことはもちろん、日豪両国をよくご存じである中で例えば日豪の関係、日豪の投資をどうすべきか、また投資環境の安定化に向けどのような施策を打ち出すべきかなど、ぜひご意見をいただきたいと思っています。
ミラー 実は、私はオーストラリアで首相も含めて何人かの大臣に「だめですよ」と言った人物として知られています。それは、考えていることをすぐに口に出してしまうということですが・・・。
滝本 当社の取締役会でも歯に衣着せぬ率直なご意見をお願いします。また、それにつられて他の取締役会メンバーからも忌憚ない意見が出されるなど活発な意見交換ができれば素晴らしいですね。
皆さん、本日はどうもありがとうございました。