INPEX Vision 2035の実現に向け、多様性や包括性が企業成長にどのような影響・好循環を与えるかについて、社外取締役と社員による対話を通じて意見交換を行いました。
メンバー
マネージャー
ジェネラルマネージャー
当社は昨年、「INPEX Vision 2035 『責任あるエネルギー・トランジション』の実現」を発表し、10年後にありたい姿に向けて、まさに一歩を踏み出したところです。しかしながら、ここ一年で世界情勢の不確実性は増してきています。本日は「Diversity(多様性)とInclusion(包摂性)が企業成長にどのようなインパクト、好循環を与えるか」について、またVisionの実現に向けて求められるDE&I(Diversity, Equity(公平性), and Inclusion)の考え方について、お二人からご意見をいただきながら理解を深めていければと思います。
まず、お二人のINPEXとの関わりについて、教えていただけますか?
昨年(2025年3月)の株主総会で社外取締役に選任され、一年が経ちました。取締役としては新人ですが、実はこれまでにも、駐日オーストラリア大使などの役職を通じて当社と関わる機会がありました。
弁護士資格を取得後、国内外の法律事務所で10年間勤務しました。2018年にINPEXに社内弁護士として入社した後、ノルウェーの現地法人であるINPEX Idemitsu Norge ASにGeneral Counselとして3年間駐在しました。2025年に帰任し、現在はリーガルユニット国内グループのマネージャーとして勤務しています。
ご紹介ありがとうございました。
私は2006年にキャリア入社し、経理・税務・財務を中心に業務経験を積んできました。2018年にオーストラリアのパースに駐在し、約7年間、イクシスLNGプロジェクトやオーストラリアの再生可能エネルギー事業などに携わってきました。2025年に経営企画ユニットに帰任した後は、全社的な視点で業務に従事しています。
不確実性が増しているからこそ、組織には多様な視点が必要
INPEXは、お二人のようにキャリア入社の社員が多い印象を持っています。私自身は新卒でオーストラリア外務貿易省に入省しました。入省同期は生涯の仲間ですが、キャリア入省の同僚は新鮮な考え方をもたらしてくれる大きな存在でした。新卒採用者とキャリア採用者それぞれの視点が組み合わされることは、組織運営上とても大切だと思います。リーガルユニットはどのようなメンバーが所属しているのでしょうか?
所属メンバーのうち、約8割が法律事務所出身であり、半数以上が外国籍の社員という、非常に国際性と多様性に富む部署だと思います。当社は多くの海外プロジェクトを展開していますので、さまざまな法域に対応できるメンバーが在籍していることにより、ワンストップで対応可能な体制となっています。
リーガルユニットは、INPEX本社のなかで最も多様なカルチャーを持つ部署ですよね。ミラーさんのご指摘どおり、当社はさまざまなバックグラウンド・経験を持ったキャリア採用が比較的多いと思います。
それは会社にとっての強みになると思います。新卒とキャリア採用の融合はうまくいっていますか?
もともと当社は異なる背景の4社(国際石油開発、ジャパン石油開発、石油公団、帝国石油)の出身者を基盤に、イクシスLNGプロジェクトのFID前後から日本・オーストラリアそれぞれで多くのキャリア採用者を迎えながら、組織づくりを進めてきました。こういった背景から、新卒入社・キャリア入社と区別がない組織になっているのではないでしょうか。
組織の統合は派閥を生み出してしまうこともありますが、良い効果に目を向ける必要があります。
Diversityという言葉には、ジェンダーや性的マイノリティ、バックグラウンド、専門性の違いなど、多くの意味合いが含まれますが、それは個々人の観点や視点が異なるということを指しています。冒頭で「不確実性が増している」という話題が出ました。今まで私たちは、一定の国際的なルールを基にした秩序のなかで生活することを当然の前提としてきましたが、地政学リスクの高まりとともに、「予想外のことが日常的に起きる世界」、「個々人が持っている暗黙の前提どおりに進まない社会」に直面しています。Diversityに富む組織は、組織としてまとまりに欠ける状況を生み出すリスクもあるかもしれません。ただし、それ以上に多角的、かつ、オープンマインドで物事を捉える機会が多いということを意味します。
日本の社会人の多くは、毎朝、日本の経済新聞を読むと思います。そうすると、その目線だけで世界を見ることになる。そこに、欧米系の経済新聞を読む人がいてもいいし、ほかの国のメディアの情報を収集する人がいてもいいと思います。チームのなかに異なる視点・観点で物事を捉える人、考える人、見る人がいることが、変化がより大きな時代で適切な事業遂行・意思決定を行っていく上では大切だと思います。
さまざまなお話ありがとうございます。まだ冒頭ですが、すでに結論に達してしまったかもしれません(笑)。
INPEXの文化、INPEXという組織が持つ特長とは。Diversityとリーダーシップ。
少し話題を変えたいと思います。当社の利益の7割はイクシスLNGプロジェクトを源泉としています。イクシスLNGプロジェクトでは、2012年の最終投資決定(Final Investment Decision)当時から、ダーウィン地域の先住民であるララキアの人々やその他地域住民の方々との社会的連携・投資を先進的に進めており、先住民協調活動計画(RAP:Reconciliation Action Plan)も定めています。また、豪州現地法人では、さまざまな専門性・異なる前職のバックグラウンドを持った社員が働いており、現地の経営層も日本人駐在員は数えるほどしか在籍しておらず、まさにDiversityに富んだ組織で日々のプロジェクト運営を行っています。
ミラーさんは当社の社外取締役に選任される前からINPEXと関わりがあったとのことですが、どのようなイメージを持っていましたか?また、ミラーさんが普段お住まいのオーストラリアでは、INPEXとはどのような企業として見られているでしょうか?
本音を話すと……、最初は、INPEXの社会的連携・投資には大きな期待を寄せていませんでした。2011年8月に駐日オーストラリア大使に就任し、INPEXの経営陣と面談した際、当時はイクシスLNGプロジェクトのFID前夜でしたが、ララキアの人々をはじめとしたソーシャル・エンゲージメントの紹介を受けました。その当時、オーストラリアの企業ですら満足にできていなかった先住民との対話を、果たして本当に日本企業ができるのか?と思ったことを覚えています。
その後、2014年にダーウィンで開催された日豪経済合同委員会の場で、黒田会長(当時)・北村社長(当時)から取組みの進捗を聞く機会があり、当初の考えを改めました。
北部準州やダーウィン市におけるINPEXの評価は非常に良いと思います。ダーウィンの人口は20万人弱ですが、北部準州の首席大臣をはじめ、みんなINPEXのことを知っているのではないでしょうか。
二つ目の質問にお答えします。オーストラリアでは、日本といえば自動車メーカーのイメージが強いため、彼らほどの知名度はINPEXにはありませんが、オーストラリア人に知られている企業だと思いますし、知っている人からの評判は良いと思います。オーストラリアでのブランディングを強化しても良いかもしれませんが、イクシスFID当時の15年前は無名でしたから、時間とともにさらに認知度が向上するのではないでしょうか。
金山さんにもお伺いしたいと思います。先ほど、リーガルユニットは多国籍で多様であるという紹介をいただきました。当社のリーガルユニットは「One Legal」という行動指針を掲げていますが、日々、どのような意識で業務に臨まれていますか?
リーガルユニットは、多国籍であることに加え、M&A、紛争解決、ファイナンス、EPC(設計・調達・建設)といったさまざまな専門性を持った社内弁護士が在籍しており、複雑かつ高度な問題に対応できる体制が整っています。多様なバックグラウンドを持ったメンバーが集まっているからこそ、互いの知識や経験を補い合いながら、自然と活発な議論が生まれ、新たな発想や論点の発見につながっていると感じます。
エネルギー開発プロジェクトは契約が複雑であるうえ、多種多様なステークホルダーが存在するため、一義的な法解釈に収まらない場面も少なくありません。そうしたなかで、多様なメンバーが多角的な視点から議論を重ねることで、さまざまな解決案を導き出せていると実感しています。
国籍や専門性、出身の弁護士事務所が異なるからこそ、多くの視点で物事を考えられる、攻めと守り両方の助言を経営陣や各部署に与えることができるということでしょうか。
そうですね。リーガルユニットにとって、適切なリーガルアドバイスを提供するためにも、ビジネスの視点をいかに持つか、経営陣・各部署のニーズをいかに把握するかという点は重要です。冒頭に新卒入社・キャリア入社の話が出てきましたが、リーガルユニットには、プロジェクト事業本部や営業本部を経験した上で異動してきた社員も在籍しています。こうしたビジネスの現場での経験に基づく知見や視点が加わることで、チーム全体のコマーシャルマインドの醸成に大きく寄与していると感じています。
私も外務貿易省に勤めていたころ、条約策定に携わっていたことがあります。「弁護士はNoと言ってはいけない」という言葉もありますが、コマーシャルマインドがないとどうしても視野が狭くなる。金山さんの話を聞いて、コマーシャルマインドがあるからこそ、当社のリーガルユニットは問題解決ができるのだと感じました。
リーガルユニットは「Deal blocker」ではなく、「伴走者・プロジェクトを進めるパートナー」であることを意識しています。リスクが高いからプロジェクトを進められないということではなく、どのようにすればプロジェクトを進めることができるかという視点を持ち、リーガルアドバイスを行うことを心がけています。
ミラーさんは当社にとって初めての外国籍の社外取締役であり、昨年の選任以来、取締役に出席していただいています。ミラーさんにとって、当社の取締役会の雰囲気はどのようなものでしたでしょうか? この1年間を振り返って教えてください。
私が日本との付き合いが長いこともあるかもしれませんが、想像していた以上に馴染みやすかったです。
もともと上田社長とは面識があったので、個人対個人の関係は心配していませんでしたが、当社の大株主が経済産業大臣であることもあり、「官僚的な組織、プロセスなのではないか?」、「社外役員の意見は届くのか?」という不安を持っていました。いざ参加してみると、大変発言しやすい雰囲気であり、私の不安は杞憂でした。
ミラーさんは他社の社外取締役をはじめ、オーストラリアの海外投資審査委員会の委員長などを務められていますが、ほかの会社・組織と比べて、INPEXの取締役会はどういった文化や特長を持っていると思いますか?
非常に温かいと思います。また、議長である上田社長が社外取締役の発言を促してくれ、発言しやすい雰囲気をつくっていただけていることも大きいと思います。上田社長のリーダーシップのおかげで、単純な質問であっても歓迎されるため、INPEXの取締役会は活発な議論が行われる土壌が整っていると感じます。
ミラーさんの取締役会での質問は、シンプルでありながら核心を突くものが多く、オーストラリアからの視点もインプットしていただけると感じます。ミラーさんの選任により、当社の取締役会はさらに活性化しているのではないでしょうか。
今まで多くの会議に参加してきましたが、たとえばオーストラリアでは、男性は自信を持って大げさに自分の成果を語ることが多く、女性はその逆です。そういった多様なバックグラウンド・特性を持った人たちのバランスを取りながら、うまくそれぞれのメンバーから知見・経験を引き出していくことがリーダーには求められており、やはりリーダーシップの果たす役割は大きいと思います。
チーム一人ひとりのキャラクター・特長を活かして、個々の能力を発揮しやすい環境をつくることがリーダーとして大事な役割ですね。
だからこそ、会議や対話はオンラインではなく対面で行うことが大事だと思います。
遠慮して発言ができないのかどうか、オンラインではわかりづらいですしね。
そのとおり。やはり発言のハードルを下げるのはリーダーの責任だと思います。
続いて金山さんにも質問させてください。
先ほど、リーガルユニットだからこそコマーシャルマインドを持つことが重要という話を伺いました。逆にリーガルユニットの立場から見て、当社は「健全な対立」を受容する組織であると思いますか?
当社は地質技術者や物理探査技術者、監査法人出身者など、多様な専門分野のバックグラウンドを持った社員が多数在籍しています。そうした背景もあり、専門家の意見を尊重する風土がもともとあるように感じています。
当社のプロジェクトは長期かつ大型のものが多く、関与する部署も多岐にわたります。どこか特定の部署だけが活躍する、脚光を浴びるということではなく、リーガルも技術部門もコマーシャルも、みなが一丸となってチームワークを発揮しなければプロジェクトの成功にはつながりません。そういった部署間の連携はINPEXの文化として存在すると思います。
技術者、コマーシャル、リーガル、それぞれがお互いを尊重しているということですね。
はい。もちろん意見が異なる場面もありますが、議論を重ねた上でリーガルアドバイスを尊重してもらえていると感じています。
また、当社のマネジメントは、プロジェクトが数十年間に及ぶこともあり、近視眼的ではなく長期的な視点からさまざまなリーガルリスクを捉え、そのリスクの影響の重要性を慎重に受け止めているように感じます。マネジメントにも、健全に議論を行う土壌があるのではないでしょうか。
プロジェクトの問題解決をする上では、リーガルユニットのなかでもいろいろな意見・選択肢が出てくると思います。他方、最終的には一定の方向性に落とし込む必要がある。そういった意見の取りまとめはどのように管理していますか?
個々のプロジェクトのことは、担当しているメンバーが最もよく理解しています。そのため、一方的な意見の押し付けではなく、まずはメンバーの意見を吸い上げ、先入観を持たずに一緒に議論するように心がけています。それぞれバックグラウンドは異なっても、リーガルチームには法的な思考という共通のベースがあり、「法律」という共通言語を共有しているため、考え方が大きくずれることはあまりありません。そうしたなかで議論を重ねることで、最終的には納得感のある結論に落ち着いていくように思います。
リーガル内では共通言語がある一方、他部門と業務で連携する際には、それぞれの専門領域が異なるため、彼らとの間での共通言語はないのではないでしょうか。そのようななかでどのようにコミュニケーションをとっていますか?
たとえば法律に関する専門的な話をするときは例を挙げて説明するといったように、わかりやすく噛み砕くことを心掛けています。また、丁寧に議論するということが大切だと感じています。
互いに話し合い、お互い知らないことを知る……、ということですね。
そのとおりです。私にとって、技術的な分野は理解が及ばないことも多い領域です。質問を掘り下げて話を聞いていくうちに、理解が深まってくるように思います。
実は私の親族がエンジニアで、彼との物の見方、考え方の違いを実感したことがあります。
以前、彼を東大寺に連れて行ったことがあります。私は美的観点でしか大仏を見たことがなかったのですが、彼は大仏の建造の仕方や構造に強い関心を持っていました。そういった視点の違いは大いに学びになりました。
今までのお話をまとめると、Diversityには、傾聴力、リーダーシップ、尊重が大事だと言えそうですね。
それに加えて共感も大切だと考えています。忘れがちですが、議論するときには他者の立場に立って物事を捉える共感力は欠かせないものです。
10年後に向けたINPEXへの期待
最後に今後のINPEXについて、お二人の考えを聞きたいと思います。冒頭に話したとおり、 2035年を見据え、今後10年間で当社がより成長するためにどのようなことがより必要かお聞かせください。
自分が考えてきたこと、信じてきたことの前提を疑うことでしょうか。変化の幅が大きい状況では、常に自分に問いかけ、問いただすことが大事だと思います。
まさにここ一年、これまで当然と思ってきたことが必ずしもそうではないことが現実のものになったと思います。変わるものや分岐点があるかどうか、問いを立て続けるということですね。
はい。組織だけでなく、自分自身のキャリアにも言えることだと思います。
業界柄もありますが、女性管理職が増えてはいるものの、まだ少ないことでしょうか。当社は男女問わず育休を取得していますし、働きやすい環境だと思います。また、COVID-19前後でフレックス制度や在宅勤務制度が導入されたように、働き方の柔軟性も向上していますし、子育て社員に対する職場の理解も進んでいると思います。私自身は、柔軟な職場環境のおかげで、未就学児を育てながら駐在を経験したり、管理職としての仕事と育児を両立することができています。
女性管理職がすぐに増えるということは難しいかもしれませんが、中長期ではさらに増えていくことを期待しています。
鉱物資源開発に関わるオーストラリアの企業のなかには、女性比率が33%に達し、女性役員が多い企業もあります。彼らもここ15年で変わった。INPEXにもできるはずです。
制度は整ってきたと思います。今後は制度を使いながらキャリアと家庭を両立できるような風土づくりが大切になりますね。
企業成長におけるDE&Iとは何か。傾聴力、他者の尊重、他者への共感。それに加えて、特定のリーダーに限定せず、一人ひとりが各々のリーダーシップを発揮すること。それらを意識すること、持ち合わせることで、結果的に企業成長にとって重要な多角的な視点・立場から物事を進めていく組織風土が企業内で醸成される……、ということでしょうか。
まさにそのとおりです。そうでないと、DE&Iという言葉だけが独り歩きし、win-winなものとならない。
本日はお二人とのお話を通じて、DE&Iを切り口とした現在の当社の立ち位置、また、2035年に向けた大きな示唆をいただきました。それらをもとに、INPEX Vision 2035達成に向けて邁進していきたいと思います。
ミラーさん、金山さん、本日はありがとうございました。